二刀流は昔から「すごい」「異例」と語られてきました。
ただ、その凄さは長い間、“歴史の棚”にきれいに並べにくい価値でもありました。
そこで効いてくるのがWAR(Wins Above Replacement)です。
WARは大谷翔平という才能を「強い物語」にしただけではなく、比較可能な史料として保存できる形に整えました。
これは能力の革命というより、評価の保存形式が変わった話です。
なぜ昔の二刀流は“歴史に残りにくかった”のですか?

理由はシンプルで、野球の価値が「分断された通貨」で管理されていたからです。
- 打者の価値:打率、本塁打、打点など
- 投手の価値:勝利数、防御率、奪三振など
ここでは「投げる+打つ」を同じ単位で足せません。
結果として、二刀流はこう扱われやすくなります。
- どっちもやっててすごい
- ロマンがある
- 比較は難しい(年表に置きにくい)
つまり二刀流は、語られても“並べられない”存在になりやすかったのです。
歴史は「強い人」だけでなく、「比べられる人」が残りやすい。ここが盲点でした。
「語りやすい価値」と「残しやすい価値」は違うのですか?
違います。
語りやすい価値は、印象や物語で増幅できます。
一方、残しやすい価値は、比較のルールに乗っている必要があります。
二刀流は前者としては最強でしたが、後者の棚に置けなかった。
そこにWARが“棚そのもの”として登場したのです。
WARは何を変えた指標なのですか?
WARの本質は、あらゆる貢献を「勝利への上積み」という共通通貨に翻訳することです。
- 打撃:得点を増やす貢献
- 走塁:得点期待値を押し上げる貢献
- 守備:失点を減らす貢献
- 投球:失点を減らす貢献
これらを同じ土俵に置いて、「代替可能な選手(リプレイスメント)」と比べて、どれだけ勝ちを増やしたかとしてまとめます。
だからこそWARは、ポジションや役割が違っても比較できる“保存形式”として機能します。
WARが「能力」ではなく「保存形式」を変えたとはどういう意味ですか?
能力は元々そこにありました。
ただ、分割された指標の世界では、二刀流の価値が二つの箱に分かれて保管されます。
- 打者としての箱
- 投手としての箱
箱は綺麗でも、「同時にやった価値」は箱の外に落ちる。
WARはこの落とし物を拾い、1シーズン=1つの歴史単位として保管できるようにしました。
WAR以前と以後で、二刀流の扱いはどう変わったのですか?

変化は「評価できる/できない」ではなく、並べられる/並べられないの差です。
WAR以前はどうだったのですか?
- 二刀流は例外的存在として語られやすい
- ただし比較が難しく、同列に並べにくい
- 「伝説」にはなるが、「年表」になりにくい
WAR以後はどうなったのですか?
- 二刀流が総合的勝利貢献として集計できる
- 他のスター選手と同じ土俵で位置づけできる
- 年代・球団・リーグをまたいで話を接続できる
WARは二刀流を、逸話から史料へ変えました。
この変化は、とても静かですが歴史に直結しています。
大谷翔平はなぜ“歴史に定着した選手”になったのですか?
大谷翔平の歴史性は、「前例がない」だけでは説明しきれません。
重要なのは、二刀流がピークを迎える時代に、保存装置としてのWARが成熟していたことです。
もしWARがない世界なら、こう分断されがちです。
- 「打者としてすごい年」
- 「投手としてすごい年」
しかし「同時にやった価値」は、構造上ぼやけます。
WARがあることで、二刀流は「同時性」ごと固定され、その年の価値が1枚の記録として残る。
大谷翔平は、能力だけでなく“指標史との噛み合わせ”でも歴史に強い選手になったのです。
「評価できる道具が揃ったから、歴史に残れた」とはどういうことですか?
偉大な選手が出たから歴史が変わる、だけではありません。
偉大さを、比較可能な形で保存できる道具が揃ったとき、歴史は更新されます。
WARは、守備・走塁・文脈を超えた比較など、埋もれやすかった価値を掬い上げ、整理し、並べるための装置です。
その装置の上に二刀流が乗った瞬間、二刀流は“語れる”から“残せる”へ移行しました。
WARにも限界はあるのですか?
あります。だからこそWARは「最終結論」ではなく「共通言語」として強いです。
なぜWARは計算方法が複数あるのですか?
WARは一つの思想ですが、実装(計算の作り方)は複数あります。
たとえばサイトや体系によって、採用する守備評価や投球評価の前提が異なります。
これは欠点というより、野球という複雑系を1つの数値に畳み込む以上、ある程度避けられない設計差です。
二刀流の価値はWARだけで語り切れるのですか?
WARは二刀流を「比較可能」にしました。ここが最大の功績です。
その上で、二刀流が生む編成上の柔軟性、興行価値、相手戦略への圧、疲労管理の難易度など、数字の外側にある価値も確かに存在します。
ただし“数字の外側”を語るためにも、まず数字で土台を揃える必要がある。
その土台がWARです。
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WAR登場が二刀流大谷翔平歴史に残せる形にした理由まとめ
WARがしたことは、二刀流を「強い」から「記録できる」存在へ変えたことです。
分断されていた打撃と投球の貢献を、勝利価値という共通通貨に翻訳し、同時性ごと保存できるようにしました。
大谷翔平は、能力が突出しているだけでなく、指標史が成熟した時代に二刀流のピークを成立させたことで、歴史に強く定着しました。
二刀流が“伝説”で終わらず、“比較可能な史料”として残った理由は、ここにあります。

