ブルペン運用の違いは、球種や球速よりも深いところにあります。
それは「リリーフ投手を“役職”として扱うのか、それとも“マッチアップ用ツール”として扱うのか」という設計思想です。
MLB、とくにロサンゼルス・ドジャースでは、リリーフ投手はしばしば次のように定義されます。
「この投手は、どの打者集合に対して期待値が高いか」
そのため、7回だからセットアッパー、9回だからクローザー、という固定の時間割よりも、相手・局面・球質で最適解を選ぶ発想が前に出やすいです。
一方、NPBでは「秩序」と「物語」でブルペンが回る場面が残りやすく、7回・8回・9回の役割を守ることで安定を作ろうとする文化が強くなりがちです。
どちらが正しいかではなく、環境に応じた合理性が違うだけです。
なぜドジャースのブルペンは「役割」ではなく「関数」で動くのですか?

ドジャース的な運用では、リリーフは「回の担当者」ではなく、条件を入れると出力が返ってくる“関数”のように扱われます。
入力(条件)は主に次の要素です。
- 次の打順は誰か
- 左右の並びはどうか
- 直近の球質(回転・キレ・制球の安定度)はどうか
- この局面のレバレッジはどれくらいか(同点・1点差・走者状況など)
この考え方だと、自然にこうなります。
- 7回でも最強格が出てくる
- 9回でも相性が悪ければ別投手になる
- クローザーが8回に出ることも起きる
つまり「役割を守ること」より、「勝率が最大化する選択を積み重ねること」が優先されます。
ブルペンは“役職”ではなく“マッチアップ用ツール”として設計されている、ということです。
「誰を抑えるか」が先に立つと、継投の順番は毎回変わりますか?
変わりやすくなります。
同じ投手でも、その日の球質や相手打線の並びで「最適な投入タイミング」がズレるからです。
固定の8回・9回よりも、「最大リスク局面に最強の選択肢をぶつける」方向へ寄りやすくなります。
なぜMLBは「相手優先」の最適化に振れやすいのですか?
MLBの前提には、再現性の置き場が“個人”ではなく“運用”にある、という思想が入り込みやすいです。
リリーフ投手は毎日同じではありません。
- 出力は日によって上下する
- 回転や制球は微差でズレる
- 体調・疲労・張りは常に揺れる
この前提に立つと、「役割固定」はむしろ危険になりやすいです。
役割を守るために、相性が悪い打者にぶつけたり、山場と投手の質がズレたりすると、試合の期待値が下がるからです。
そのためMLBでは、
「相手に合わせて最適解を選び続けるほうが、長期の勝率が安定する」
という発想に寄っていきます。
「セーブ数」より「抑えた局面の質」が評価されやすいのはなぜですか?
重要なのは“何回に投げたか”より、“どれだけ勝敗に直結する場面を消したか”になりやすいからです。
同点・1点差・中軸が並ぶ局面をゼロで切り抜ける価値は、形式上の9回より高いことがあります。
この価値観が、起用を「役割」から「局面」へ押し出します。
NPBのブルペンが「物語」と「秩序」で回るのはなぜですか?

NPBでは次のような時間割型運用が残りやすいです。
- 7回:勝ちパ①
- 8回:勝ちパ②
- 9回:クローザー
この形には、はっきりしたメリットがあります。
- 準備がしやすい
- 心理的な安定がある
- 役割意識が明確になり、迷いが減る
これは決して弱点ではなく、チーム運用の強みになり得ます。
ただしデメリットも同時に発生しやすいです。
- 一番怖い打者が8回に来ても、最強投手を当てにくい
- 相性が悪くても「役割だから」投げる判断になりやすい
- 試合の山場と投手の質がズレやすい
つまり、
「最大リスク局面 ≠ 最強投手」
になりやすい構造です。
NPBの固定役割が機能する場面はどんなときですか?
役割の“再現”が投手の集中と準備を支えるチームでは、時間割は強力です。
登板前のルーティンが安定し、日々の心身の調整がしやすくなります。
この秩序があるからこそ、短期の勝ちパが強固になるケースも多いです。
「この打順だからこの球種」という発想はどこで効いてくるのですか?
MLBではリリーフ投手が、球種の組み合わせで“打者集合に対する期待値”を持ちます。
- 高回転フォーシーム × 高めが効く投手
- スライダー × 右打者に強い投手
- チェンジアップ × 左打者に刺さる投手
この見方をすると、起用は「回」ではなく「打順」で決まりやすくなります。
同じ投手でも日によって使いどころが変わり、役割よりも“最適な当て先”が先に立ちます。
これが、ドジャースのブルペンが“関数”で動いて見える理由です。
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ドジャースとNPBのブルペン運用は何が違うまとめ
MLB(とくにドジャース)
- ブルペンは「何回か」ではなく「誰を抑えるか」で動きやすい
- 役割より、相手・局面・球質の最適化で勝率の安定を狙う
- 7回に最強が出る、9回に別投手が出る、が自然に起きる
NPB
- ブルペンは「役割の秩序」を守ることで安定を作りやすい
- 準備と心理の安定、役割意識の明確さが強みになる
- ただし山場と投手の質がズレるリスクも抱えやすい
どちらが優れているかではなく、再現性をどこに置く設計かの違いです。
長期戦・データ前提・相手最適化が進むほど、「相手で動くブルペン」は勝率を裏切りにくくなります。
だからドジャースでは、7回に最強が出てきても誰も驚かないのです。

